平野区ストーカー殺人事件
事件概要

2014年5月2日午前2時頃、大阪府大阪市平野区で近くに住む男性から「男女の争う声が聞こえる。」と110番通報があり、大阪府警平野署員が駆け付けたところ、腹に刃物が刺さった女性が道路脇の植え込みに倒れているのを発見した。
女性は大阪府松原市のスナックアルバイトの井村由美さん(当時38歳 既婚)で、搬送された病院で死亡が確認された。
井村さんは首や胸など数十カ所を刺されており、腹には凶器の包丁が刺さったままだった。

殺害されたスナックアルバイト井村由美さん(当時38歳)

 

大阪府警は現場で目撃された車と似た車を、約1km先のコンビニ駐車場で発見する。
車の中にいた手に傷を負った不審な男を、職務質問し事件について聞くと、犯行をほのめかす発言をしたため逮捕した。
男は井村さんの働くスナックの常連客であった、無職の松本隆(当時57歳)であった。
松本はスナックで働く井村さんに好意を寄せ、しつこく井村さんに連絡をするなどのストーカー行為を行い、同店舗を出入り禁止になっていた。
そのことに腹を立てた松本は、更にストーカー行為を続けており、井村さんから相談を受けた大阪府警松原署は電話での注意や、署に呼び出し文書による警告を行なっていた。

犯人の無職 松本隆(当時57歳)

 

 

 

背景

・事件までの行動
2013年8月頃、松本は井村さんの働くスナックに通うようになり、好意を寄せていく。
2014年2月頃、松本は井村さんへの行動がストーカー化していき、店舗の経営者ゆりスナックを出入り禁止になる。
3月1日と翌日の2日、井村さんに松本より殺害を示唆するようなメールを33通受け、井村さんは松原署にストーカー被害の相談をする。
松原署員は井村さんの意向を受け、松本に対して電話による口頭での注意をする。
3月12日、松本からストーカー行為が止まず、井村さんは松原署へ再度ストーカー被害の相談をする。
相談を受けた松原署は、松本を呼び出し文書による警告を行う。
警告をされてからは、メールや電話は止まった。
4月2日、松原署員は井村さんへ電話での安否確認を行うと、特に問題ないと説明される。
5月1日、松本はレンタカーを借り、井村さんを殺害するべく準備を行い、元妻の職場を訪れる。
5月2日、松本は井村さんの帰宅時を狙いレンタカーで待ち伏せしていた。
そして自転車で帰宅する井村さんをレンタカーで追いかけ、井村さん宅から約1km離れた住宅街で襲いかかり殺害し、レンタカーで逃走した。

犯行が行われた大阪市平野区の住宅街

 

松本が逃走する様子は複数の人が目撃しており、約4時間後に現場から約1km離れたコンビニの駐車場で、付近を捜索していた捜査員により職務質問され、事件への関与を認めたため逮捕した。
逮捕後の取り調べで松本は「井村さんが好きだった。もう会うことが出来ないなら、殺して自分も死んだらあの世で一緒になれると思い殺した。」と供述した。
松本の自宅付近の近隣住民の話では、松本が現在の居宅である市営住宅に転居してきたのは約2年前で、一人暮らしだが別居している子供の事で悩んでいると漏らす事もあった。
近隣住民の印象では、挨拶したら返してくれる礼儀正しい印象だと、近くに住む女性は語る。
しかし松本とトラブルを起こした事のある男性は、シャツの首元から刺青を見せ「俺が10歳若かったらどうなってたかな」と脅された事があり、自分は暴力団関係者だと言っていたと語った。
松本の知人の話では「最近スナックに通っているが、女性にメールしても返って来ない。」と不満を漏らしており、松原署から文書警告を受けた日には、馴染みの店を訪れ「警察から電話したり近づいたらだめと言われた。」と語っていたそうだ。

 

・警察のストーカー対応
井村さんから松本のストーカー相談を受けた松原署は、相談当初から危険性の高い事案と判断しており、ストーカー行為がエスカレートする危険性を考え、井村さんに刑事告訴と転居を勧めた。
しかし井村さんは刑事告訴ではなく、口頭での注意を希望し、転居についても家族と離れて一人暮らしは出来ないと言われ「もし自宅に松本が来たらすぐに警察に連絡します。」と回答し、転居する事はなく、職場もひだまりのままだった。
そのため松原署は月に一度、井村さんから電話にて現状を把握する対応を取っており、4月2日には1回目の電話確認を行なった。
電話確認の際に井村さんから、ストーカー行為を受けてないとの返答を聞き、松原署は3段階の危険度のうち、2番目に位置していた本件を1番危険度の低い3番に引き下げた。
次の電話確認は5月2日の予定であったが、その当日に事件は起きてしまった。

 

・加害者の過去
松本は以前に、元妻に対し暴力を振るった事で、傷害容疑等で逮捕された事があった。
裁判の結果、執行猶予判決を受けており、事件当時も執行猶予中であった。
また裁判所よりDV防止法に基づき、元妻への接見禁止命令も出されていた。
この事実を大阪府警は井村さんに対し伝えていなかった。

 

 

 

▪裁判
5月28日、大阪地裁で松本の判決公判が開かれた。
裁判長は「一方的に裏切られたて解釈して恨んでおり、理不尽で身勝手の極み」として、懲役30年を言い渡した。
裁判長は判決理由について「謝罪を口にするなど反省しようとする姿勢は見せているが、犯行の計画性や残忍さ、執拗さの面で悪質である。」と指摘し「今でも井村さんらの行為を裏切りと言い反省は不十分である」と述べた。